Saturday, March 7, 2020

取りやめになった発表のアブストラクト「日本生態学会 ESJ67」

まさに生態学会大会の総会・受賞講演のネット配信を聴きながらこれをアップしています。自身としてはこの学会での初めての発表になる予定だったものです。分子生物学会との合同企画シンポジウム「先端オミクスで生態に迫る」の分子生物学会側のオーガナイザーとして企画した立場でもありました。これで分子生物が学会との合同企画は最後になるとのことです。
3月5~8日 日本生態学会 ESJ67 @名城大学


「海の大型脊椎動物の進化と生態にDNA情報で迫る」

工樂 樹洋

様々な魅力がありながら大型・長寿なために実験室とは縁遠い軟骨魚類であるが、分子の情報だけを取り出して手元で調べることでその生態に迫ることはできないものか。そういう興味から、水族館で飼い切れないイヌザメ胚や健康管理のために採取されるジンベエザメ血液を利用してオミクス解析に着手した。ところが、トラザメで6.7ギガベースを越えるなど、おなじ「魚」といっても真骨魚類とはかけ離れたゲノムサイズが大きな障害となった。それを打破したのは、日頃から多様な生命科学研究を技術面で支援することで蓄えた地力だったかもしれない。DNA抽出からアセンブリまでのワークフロー全体を綿密にデザインし研究室内で完結させることにより、投資した時間と予算のわりに高質のアウトプットを得ることができた。通常ゲノムサイズの100倍の総塩基数を取得するのが相場であるのに対し、ときにはその半分で安価に済ませたり、「スキャフォルディング」と呼ばれる配列延伸において、メイトペア(1)そしてHi-C(2)とプロトコルの独自改変を加えながらアセンブリの仕上がりを最適化することができた。本発表では、オミクスの中でも大規模DNAデータ取得において技術面の洞察が研究の成否をいかに左右するかをまず論じる。さらに、サメ複数種の新規ゲノム解析(3)から明らかとなった分子進化学的特徴と、光受容タンパク質オプシンの分子特性が示唆する深海でのジンベエザメの生態に触れ、野生状態での生態学的知見が乏しい生物について、ゲノム情報が貴重な知見を与える可能性について展望する。

 

No comments:

Post a Comment