Tuesday, April 23, 2013

ウミヤツメゲノムコンソーシアム(1)

そういえば、まだ神戸にいた2005、6年ごろから、旧式のサンガーシーケンサによるウミヤツメゲノムの配列データが出始めたことを把握していたのだった。あの頃は、ハードコアな実験生物学者に囲まれて、独りでゲノム情報を扱っており、新たな配列データベースやゲノムリソースの情報を自分でどこから得ていたのか、もう覚えていない。

それから・・・・、2年ほど経ったころ、私はドイツの田舎の大学のオフィスで、そこそこつながったウミヤツメゲノム配列が手に入ることを知り、おもむろに解析を始めたと記憶している。渡独して間もない時期だったので、異国での生活だけでなく学部の講義などもまだおぼつかない頃である。このとき扱っていたのは、Version 3と呼ばれたアセンブリである。おそらく私の研究キャリアの中で最も興奮しながら扱ったゲノムアセンブリであろう、これからどんな生き物のゲノムを扱うとしても。

当時は、その「アセンブリ」がどのようにして、そして誰によって構築されたかは全くしらなかった。ゲノムプロジェクトが通常どのように行われるかも知らなかったはずだ。それでも、作られたアセンブリは、数々の既存のツールで「遊ぶ」には格好の材料であった。GenScanも、RepeatMaskerも、BLASTも、自分でセットアップしたワークステーションの上で、何度も何度も走らせた。有給の学生研究補助の制度(HiWi)を使って、プログラミングに長けた学生に、AugustusをTraining(この「AL5」と呼んだTraining条件は現在、Augustusサーバー・プログラムにおいて利用できる)してもらい、より確かにコード領域を推定できるようにして、ゲノムワイドな遺伝子セットを用意した。

こんな感じで時間が少し経ったころ、このゲノムプロジェクトを推進する中心的立場を担っているという研究者に進捗などをメールで尋ねることにした。このプロジェクトには、珍しくWhite Paperなるものが存在しなかった。進捗を尋ねるのに、誰に連絡したらよいかも、最初は容易にわからなかったと記憶している。ここで、予想できたのは、すでに名だたる研究者たちがこのゲノムのアノテーションを行っていて、ほどなく解析結果が公表されてしまうという状況であった。そうなれば、私のチームの努力は無駄になるのであるが、なんだかそんなことはどうでもよかった。自分の手でゲノムを「解いて」、その結果に思いを巡らす経験をすることそのものが財産である、ということを強く感じながら進めていたのをいまでも覚えている。誰が解析しても見つけられないものを自分なら見つけられる、と思っていたわけでは決してない。

メールでやりとりを少ししたあと、その研究者と電話で話そうということになった。これから解析を始めるところだから、ぜひ解析や議論に参加してほしい、ということであった。もともと、ヤツメのゲノムを解析することが専門だと知れた研究者など、いるわけはなかった(たぶん)。今思えば、少しでも、ヤツメの面白さや、この生き物についてこれまでどのような研究が行われてきたかを把握している人に加わって欲しいと思っていたに違いない。さらに、彼本人が内分泌学者であるから、ゲノムインフォマティクスに少しでも近く、それでいて、他の生物ではなく、このヤツメのゲノム解析に注力してくれる人を巻き込むことで、自分への負担を軽くしたかった、という思惑もあったであろう。私はベストフィットな人間ではなかったが、少しでもそれに近いと思ってくれたようで、彼の所属先で行うコアミーティングに参加してほしい、ということになった。

(続く)


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